恒常性の仕組みを治療へつなげる
2026年 艮陵新聞(東北大学医学部同窓会向け新聞, 令和8年度第1号, 第334号) 寄稿
私は、腎臓・高血圧学の臨床を出発点として、生体内で恒常性がいかに維持され、その破綻がどのように疾患に結びつくのかに関心を持ってきました。 腎・高血圧・内分泌科(現 腎臓・高血圧内科)に入局後は、地域医療を含む臨床と基礎研究の両面から多くを学び、病態を個体から分子へと掘り下げて理解する姿勢を培いました。
生体では、レドックス(酸化還元)バランスが適切に保たれることで、細胞・組織・個体レベルの機能が維持されています。 一方で、この均衡が破綻すると過剰な酸化ストレスが生じ、鉄依存的な脂質過酸化を特徴とするフェロトーシスなどの細胞死が誘導されます。 フェロトーシスは急性臓器障害、神経変性疾患、がんなど多様な病態に関与し、新たな治療標的として注目されています。
私は2020年から5年間、ドイツのヘルムホルツセンターミュンヘンに在籍し、フェロトーシスの制御機構の解明と、その制御因子を標的とした治療候補化合物の開発に取り組んできました。 今後は、細胞死の分子基盤と病態との関連をさらに明らかにし、酸化還元バランスの破綻に起因する生体応答が疾病に及ぼす影響を体系的に解明したいと考えています。 また、ドイツでの研究生活を通して、研究への向き合い方や働き方の違いを実感しました。 今後は、若手の先生方が国内外で主体的に活躍できるよう、その成長を支援していきたいと思います。
本学の衛生学を源流とする環境医学分野の使命である「環境因子が人体に及ぼす影響」の解明に、「レドックスー細胞死ー疾病」という視点から取り組み、分子から個体レベルまで統合的に解析することで、健康維持、疾病予防、治療応用にも資する新たな知見の創出に貢献していきます。
座右の銘 Chance favors the prepared mind.
