2026年4月1日付で、東北大学大学院医学系研究科 環境医学分野 教授を拝命いたしました三島英換と申します。

当教室は、東北大学において100年の歴史を有する衛生学講座を源流とする伝統ある分野です。初代の近藤正ニ教授は、日本における長寿・短命地域の比較研究や、脳卒中と食生活に関する地域疫学研究を先導され、本邦の衛生学の礎を築かれました。その後、時代の要請とともに研究領域を発展させ、前々任の佐藤洋教授の時代には環境保健医学としてメチル水銀をはじめとする重金属の健康影響に関する研究が展開されました。さらに前任の赤池孝章教授のもとでは、生体レドックスや超硫黄分子の機能に関する研究が深化し、本分野は基礎から応用に至るまで多角的な発展を遂げてまいりました。

このような歴史と伝統を受け継ぎつつ、次の時代においては、「環境がヒトの健康および疾患にいかに影響を及ぼすか」を、分子レベルから個体レベルまで統合的に解明し、その成果を医学・医療へと還元することを目指してまいります。特に、細胞死(フェロトーシス)、レドックス制御、酸化ストレス、さらには創薬応用を主要なキーワードとして掲げ、環境医学のさらなる発展に貢献していきたいと考えております。

私は2006年に東北大学医学部を卒業後、大崎市民病院・東京大学病院にて初期・後期研修を行い、その後、東北大学大学院医学系研究科 腎・高血圧・内分泌学分野において、伊藤貞嘉先生、阿部高明先生の指導のもと、臨床および基礎研究に従事してまいりました。また大学院卒業後の2013~2015年に東北大学メディカル・メガバンク機構が行う東日本震災後の被災地支援の一環として南三陸診療所での地域医療にも携わりました。これらの期間に、腎血行動態、高血圧、尿毒素、腎と腸内細菌叢の相互作用などをテーマとする研究を通じて、生体内の酸化ストレスが疾患発症・進展に与える影響に着目するようになりました。

酸化ストレスが生態に与える影響を検討する中で、当時新たな細胞死概念として提唱されはじめた鉄介在性の脂質過酸化に基づく細胞死様式「フェロトーシス」に強い関心を抱き、以降その研究を主要テーマの一つとして取り組んでまいりました。2020年から2026年までは、フェロトーシス研究を世界的にリードするドイツ・ヘルムホルツセンターミュンヘンのMarcus Conrad研究室に所属し、フェロトーシスの制御機構の解明および創薬応用を目指した研究に従事してきました。これまでに、Nature誌をはじめとする国際誌に研究成果を発表し、本分野の進展に寄与してまいりました(Nature 2022, Nature 2023, Mol Cell 2024, Nat Metab 2024, Nat Rev Mol Cell Biol 2025など)。

フェロトーシスは、「鉄・酸素・脂質」という生命維持に不可欠な要素がもたらす「両義性」によって生じる細胞死です。生命はこれらの3要素を利用して成立している一方で、この3要素は同時に脂質過酸化を促進し、細胞死に至るリスクを内包しています。すなわち、生体は常に「死」と隣り合わせの状態にあり、そのバランスを巧みに制御することで恒常性を維持しています。この制御機構の破綻は様々な疾患に関わるため、フェロトーシスの理解は生命現象の根源的理解につながる重要なテーマです。さらに、フェロトーシスの制御は医療応用の観点からも大きな可能性を秘めています。例えば、がんにおいてはフェロトーシスを積極的に誘導することで新たな治療戦略となることが期待されており、一方で臓器障害や神経変性疾患などにおいては、その抑制が治療につながる可能性があります。

さらに今後、本分野ではフェロトーシスにとどまらず、レドックス生物学に関連する多様な現象や、未だ十分に解明されていない新規細胞死様式の探索にも取り組み、生命科学の未踏領域の開拓を目指してまいります。また、臨床医としての経験を持つことを生かして、基礎研究と臨床研究の融合を通じて、環境と健康の関係性をより深く理解し、その成果を社会へ還元することを使命として邁進していく所存です。

卓越研究大学として新たな歩みを進める東北大学医学部の一員として、その歴史と伝統を礎に未来を切り拓くべく、教室員一同、誠心誠意努力してまいります。皆様のご指導とご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

2026年4月 三島英換